講評:後藤卓也先生
公立中高一貫校が誕生した当初は、「学力試験ではなく適性検査である」と、私立中学入試との違いが殊更に強調され、調査書の比重が高く、客観的な知識(いわゆる「受験学力」)よりも「友だちへの思いやり」や「クラスのリーダーとしての言動」「環境問題への意識」などを作文させる傾向が顕著だったのですが、ここ数年は、とりわけ都市部を中心として、私立中学と共通の土俵に立って、しっかりとした学力を問う出題が主流となっています。
そのこと自体の是非を議論するつもりはありませんが、現在では私立中学との併願者が増え、算・国・理・社の客観的な学力が、適性検査の合否を大きく左右するようになっていることは、紛れもない事実です。したがって今回の模擬試験も、しっかりと受検勉強をしている生徒に有利な出題となっています。
適性検査 I
- [問題を見る]上皿てんびんの使い方は小学校で学習するなので、問題2は受検生全員に正しく解答してほしい問題です。問題1は「重さ」と「質量」の違いという、中学校で学習する深いテーマが込められていますが、「ばねばかり」と「上皿てんびん」の仕組みの違いをよく考えれば答えられるはずです。問題3は算数パズルです。ちなみに「1g・3g・9g・27g」の4つの分銅があれば、1gから40gまでの重さを1g刻みですべて測ることができます。どうやって測ればいいか、考えてみてくださいね。
- 今年の夏の一番の話題といえば、やはりロンドンオリンピックですね。日本選手団の活躍に夜遅くまでテレビの前で声援を贈った人もいるかも知れません。しかし今回の出題は「オリンピック誘致に伴う弊害や問題点」、さらには「なぜアメリカやヨーロッパばかりで開催されるのか」という、大切な問題が出題されています。参考資料はあまり多くはないので、率直に自分の考えたことを書いてください。
- 月の満ち欠けと金環日食の起こる仕組みについての問題です。難関私立中学では非常によく出題されるテーマで、今後、公立中高一貫校の適性検査でも多く出題されていくことが予想されますので、絶対にできてほしい重要な問題です。
- [問題を見る]最後は生徒の課外活動についての調査結果を整理して要約する、「適性検査」独自の出題形式です。「表を読んでグラフにまとめる」「グラフを読んで、そこからわかることを論述する」のは、中学生になってから、いや社会人になってからも不可欠な技能です。このタイプの問題には「正解」はありません。ただし自分の思ったことを勝手に書くのではなく、あくまでもデータに基づいて考えることが不可欠です。
適性検査II
「適性検査」でもっとも重視されるのは「文章力・表現力」です。
ただし、これも「適性検査Ⅰ」と同じように、「与えられた文章をしっかり読み、『何を聞かれているのか』を正しく捉えることが肝心であり、テーマから外れた答案は減点対象となります。
外山滋比古さんの文章は、多くの(私立)入試問題でも取り上げられることが多く、「考えさせられること」の多い名文といえるでしょう。
問題三が「四百字以内の記述」となっていますが、大切なのは
「著者の意見を参考にしつつ」
「自分の経験を具体的に述べる」という問題の条件をしっかりと読み取ること、
そしてもうひとつは、制限字数や原稿用紙の使い方をきっちりと守るということです。
夏休みの宿題の自由作文や読書感想文を書くのが得意だからといって、適性検査の400字記述がうまく書けるとは限りません。ふだんから文章を書き慣れている受検生のほうが有利であることは言うまでもありませんが、それに加えて「読む力」「理解する力」が重視されているのです。
まだ「本番」までは4か月近くあります。
今回の模試結果に一喜一憂するのではなく、今回の模試で明らかになった自分の弱点をひとつひとつ丹念に補っていきましょう。みなさんのご健闘を心からお祈り申します。